私の大切なこと──子供たち、友達、仕事、食事、料理

私が大切にしていること。まず、友達を大切にしています。子供たち。仕事。食事。料理。そんなことかしら。順番で言うと、子供たちが一番かな。二番に友達かな。私の娘とべべちゃん(※島田さんのお孫さん)は、パリの自宅の上の階に住んでいます。出て行ってほしいけど、出ていったらそれはそれで寂しいし。一緒にいられるうちには一緒にいたいですね、小さいべべちゃんが6才でかわいいから。親子だから難しいですよ、ケンカもたくさんあるし。

自宅でリラックスして話す島田さん
自宅でリラックスして話す島田さん

友達は、兄弟とか親――はもういなくなっていますけど、そういった肉親は、自分が選んだ人たちじゃないじゃない。友達は大人になってから自分で選べるし、選んだ友人だから、大切にしたい。行き違いや喧嘩っぽいことがあっても、許しあえる友達。そういうのが大事だなって。空気みたいな存在の友達が一番いいですね。言い訳しなくていい。私はすごく気を遣う人なので、傷つきやすかったり、相手にも同じようなことを感じると、すごく苦しいのね。そういうときも、もう一度話し合えて仲よくなれるっていう。

自宅でリラックスして話す島田さん
自宅でリラックスして話す島田さん

私の友達関係というのは、長いんです。大事にするから。私たちの年齢に合った友達というよりも、すごく年上だったり、年下だったり、年齢は関係なく友達って大事。いろんなことを教えてくれるし、シェアできる。食事に行くだけじゃなかったり、仕事をするだけじゃなかったり。本当の友達は、苦しいときには駆けつけ合ったり、それだけじゃないですけど、よいところも悪いところもみんな飲み込んで、友情は生まれますよね。誰だってよいところばかりじゃない、人間、誰でも欠けているものがあります。私なんて大(おお)欠けだから、そういうのを許してくれる……そして私も許せる。

自宅でリラックスして話す島田さん
自宅でリラックスして話す島田さん

言葉がすれ違ってしまって悲しいときには、運転して車の中で歌を歌うのは、私なりの悲しいときの解決方法。友人関係にはグチを言ってしまうけど、仕事のことやなんやかや言いたくなっちゃうけど、お互い思いやらないとね。私ばっかりグチを言っていても失礼だし、自分で解決しないといけないことは、たくさんあるのよね。

そういうときは車の中でひとりになって、なんかしてたりするわね。お互い一緒にいる時間をハッピーでいられるよう努力するような、お互い同じ価値観を持っている人とは理解し合えます。そうじゃないと、いちいち説明しないといけないような人は友達にはなっていないですね。

島田さんが愛するライダースジャケットを、ベアにも
島田さんが愛するライダースジャケットを、ベアにも

私は自分のほうは、気が合いそうな人ってすぐわかるけど、相手の人は例えば仕事で出会っていたら、仕事は仕事って割り切る人は割り切るしね。仕事の作業を通してだけのつきあいって、私にはすごく冷たく思えるの。

でもそれはそれで、私もそれ以上は深くその人に入っていけないので、そこまでですけど、本当は仕事でも、付き合うなら、泥足で踏み込んでいけるくらいの人がいい。私たちの仕事って、わかり合うことがすごく大事だから、プライベートの暮らしでも、どんどんお互い中に入って、自分のことわかってもらうのって大事じゃないかなと思ってるんです。

私の大切な時間──東京の自宅で大切にしている「ぼんやり時間」

パリにいても東京にいても、生活のペースはあまり変わらないわね。まずは浦島太郎にならないように、すぐニュースを見ます。フランスにいるときも、日本のニュースは全部見てますよ。

テレビのほか、新聞も週刊誌も取っています。遠くにいると、どういう本が日本で出ているのかわからなかったりするので、書評なんかも役立ちますね。あとは、面白いコラムやコメントもたくさんありますしね。仕事で忙しくしているときも、習慣として読んでいます。

自宅でリラックスして話す島田さん
自宅でリラックスして話す島田さん

このマンション(島田さんの東京のご自宅)は亡くなった夫と住んでいた家で、こんなにビルがいっぱいあって東京のど真ん中なのに、真下に皇居が広がっていて違うところにいるみたい。シチュエーションとしてはすごく気に入っています。パリのおうちも自然がいっぱい。ボロ家を見つけて、改造したって感じよ。

前が小さい公園になっていて緑がいっぱいで、空が見えてとても気持ちがいいのです。パリの街の中では公園などはすべて人工的につくられたものが多いので、ゴルフや犬の散歩で森に行ったりして自然を感じています。

マンションのテラスで話す島田さん
マンションのテラスで話す島田さん

自然の中で自然に関わるライフスタイルが当たり前で、この東京のマンションでずっと暮らしていたら狂っちゃうかもしれない。私はダメなんです。時間があったら飛び出して、自然の中にいたいですね。

好きな時間は、ひとりの時間。夕日が沈むまでの時間を、本当にひとりでポカーンとしているのが大好き。無駄だと思うんだけど、その無駄が大好き。ぼんやりぼんやり。仕事は忙しないというか、そういうポカーンとした時間が一番大事だから、あえてそういう時間をつくってるわね。つくるというか、それがある前提でスケジュールを決めているわね。

自宅でリラックスして話す島田さん
自宅でリラックスして話す島田さん

ボケッとしてると本当に何もしないんです。本も読んだりするけど、一番好きなのは空っぽになっているときです。みなさんのようにアクティブじゃないんですよ。私が必死に仕事する時間はすごく短くて、パッとやっちゃう。そんなに集中力を維持できないんです。持久力がないのね。パッと思いついたらワーッとやって、2時間くらいでパッと終わったりします。

自宅のキッチン前でリラックスして話す島田さん
自宅のキッチン前でリラックスして話す島田さん

ひとつのコレクションをつくるのにも、そんなにダラダラやらないです。やろうとして、消しゴム置いて、鉛筆置いて、用意してるけど、全然描けなかったりして。そういう何も進んでいない時間も、ポワーンとしてる時間ね。私が何も思いつかないとアトリエ全体が進まないから、何かは進めないといけない。だから夜眠れなかったり、朝起きてから書き始めたり、思いつくと早いけれど、そこまでの無駄な時間が多いんですね。仕事の仕方は、若いときと変わっていないんじゃないかしら。

「髪は、満月の日に自分で切っています」

 

ヘアスタイル、変えたいと思うこともあるけど、私は美容院が苦手なの。自分でぐちゅぐちゅってやるの。洗い髪でそのままやればいいから便利よ。気づいたらこうなってたのよ。横着者なんですよ。美容院に行く時間があったらポカーンとしていたい。

自宅の中心で話す島田さん
自宅の中心で話す島田さん

お月さまの下で1か月に一回髪を切ると髪を切ると、幸福になるみたい。魔法使いのおばあさんがそう言ったのね。あ、魔法使いじゃなくて、占いの人。だから、「あ、満月だ」と思ったら自分で毛先だけパチッって切ったり、時には忘れちゃって10cmくらい切ったりも。だって幸せになりたいから。ごみ箱持って、パサッて切るのよ。髪をまとめるときはつっこんじゃうから、そろってなんかいないです。

髪型について話す島田さん
髪型について話す島田さん

以前は、中国人の方が大昔、失敗しそうになると「引っ張ってくれる」というおまじないで髪を編んでいたと聞いて、三つ編みにしていたの。それは幸せになりたいから、それでなれるなら、やっておいたほうがいいかなって(笑)。

友人にも美容師の方が多いんだけど、せいぜいシャンプー買いに行くくらい。こんなに適当な感じでいいのかなって思うんですけどね。浮世の人は、ちゃんと朝起きて働いているのに、スタートする時間帯も遅くてすごく罪悪感もあるけど。でもまぁ、いいじゃない? 年だから、遠慮せずにずうずうしく。

島田順子さんの髪型(バックスタイル)
島田順子さんの髪型(バックスタイル)

私の大切なもの──シンプルなスタイル、台所用品、動物もの、グラス

私らしいスタイルというのは、いろいろトライしてみた結果、こうなったという感じですかね。公式がないから、難しいわよね。うちの子も意外なものを組み合わせたり、工夫したりやってるわね。

でもカットのいい服は大事よ。私は、扁平な服は、同じTシャツでもすごく嫌い。そういう好みはありますね。カットがいいっていうのは、自分の体にフィットしてるというか、似合う形のこと。襟の空きが自分に合っているか、とか。今着てるような、ジャージィのワンピースもふだん着たことないのよ。今日も取材の時間を間違えちゃってて、たまたまサンプル用に作ってあったのを見つけて着てみたのよ。このジャージィ素材のTシャツを作ったの。

照れる島田さん
照れる島田さん

さっき気づいたんだけど、後ろ前に着てたの。タグが前にあるでしょ。たいして胸がなかったり、お尻がなかったりするから、後ろも前も同じで着られちゃった(笑)。この色はすごく好きね。青みがかったグレー。紺になりきれない紺とか。グレーになりきれないグレーとか。自分らしさといっても、そんなものよ。

あんまりシンプルだから、賑やかそうかなと思って大ぶりのイヤリングしただけとか。このイヤリングもジュエリーじゃなくて、全部イミテーションよ。こういうのしていると、目線がそっちにいくから、いいかなって。そんなにスタイルに決まった形があるわけでもないんです。

笑顔の島田順子さん
笑顔の島田順子さん

好きなものでいうと、道具は好きね。カメラも一時いろいろ買ったけど、全部引き出しに入ってるわ。あと、包丁もお皿も好きだし、台所用品も好き。何かついつい集めちゃうんです。最近、一軒、家を畳んだので、そこにあったものをかついできたから、この部屋には、モノがいっぱいあります。

島田順子さんのご自宅にあるクリスマス小物
島田順子さんのご自宅にあるクリスマス小物

動物ものはなんとなく手が出ちゃうわね。クリスマスのころ子供たちにあげようと思って、ゾウの人形を買ったの。そういうくだらないものをいろんなところで買っちゃう。価値とか値段関係なくね。たぶんこれも¥1,000くらいね。

島田順子さんのご自宅に飾られた動物の人形たち
島田順子さんのご自宅に飾られた動物の人形たち

グラスも大好きなの。これ東京で買ったのよ。なんか同じ水でも、飲むのが楽しくならない? そういうモノに目がありません。

島田さん愛用のグラス
島田さん愛用のグラス

私の大切なもの──亡くなった旦那さまとの思い出の指輪

今、物に執着がないんですね。大泥棒に遭って、思い出の品がごっそり持っていかれてから、モノに対する執着が減ってしまって。いざなくなってみると、宝石なんか特に、あそこに置き忘れてきちゃったとか、どこにいっちゃったんだろうとか、そういう心配がなくなってよかったのかも、と思ったりしています。

ご主人との2ショットを手に持つ島田さん
ご主人との2ショットを手に持つ島田さん

それまで、一生懸命働いて自分にごほうびをしていたから、また働かなくちゃ、と思ったりもするけれど。モノに対しての執着はないんですけど、私の亡くなった夫に初めてプレゼントされた指輪だけは、別。ずっと大切にしているもの。これだけは泥棒に持っていかれなかったんです。

すごくクラシックで、真珠が付いていて、両側にダイヤモンドが付いていて、すごくいい指輪。これは夫と知り合い、恋愛が始まったばかりのころに、突然プレゼントされたの。それが、すごく素敵だったの。全部覚えてる。

島田さんが旦那さんからプレゼントされた指輪(島田さん撮影)
島田さんが旦那さんからプレゼントされた指輪(島田さん撮影)

そういうふうに、泥棒にあっても、自分が落としたと思っても、不思議と手元に返ってくるものってありますよね。このネックレスもそうなんです。1980年代かな、コレクションの後に、あまりのストレスで苦しかったから、自分でごほうびに買ったもの。これも30年くらい持っているわね。

泥棒の難も免れ、いつも島田さんの側にあるネックレス
泥棒の難も免れ、いつも島田さんの側にあるネックレス

夫とは、42歳のときに東京で出会ったの。日本に帰国してるときにホテルにいると、友達から「今日何するの?」と連絡がありまして。その友達が「友達の誕生日パーティーがあるから行く?」と聞いてきたのですが、私が知らない人の誕生日パーティーなんて行っても、仕方ないですよね。

でも夕飯ひとりで食べるのも嫌だし、渋々行ったら、この人(※旦那さま)の誕生日だったんです。不思議な出会いですよね。出会ったときは、ぜんぜんその気はなかったの。彼もほかの女の人を連れていたし、私も大失恋で5年くらい泣いたりして、飽き飽きもしていたから、傷つきたくなかったりもして。

旦那様との思い出をにこやかに話す島田さん
旦那様との思い出をにこやかに話す島田さん

日本でサラリーマンの人って、いつもネクタイしてスーツを着てるじゃない。セオリーも違うし、ちょっと私とは違うかなと思っていたのに、まさにサラリーマンの人とそういうことになったのは、不思議ね。出会ったのは彼が40才の誕生日で、結婚するまでの間に5年くらいおつきあいをしました。だって年ですもの(笑)。私が47才、彼は私のふたつ下だから、45才ですね。その初めて出会ったレストランの写真があるんです。偶然に友達が撮ってたのね。それが後から出てきたの。その写真も宝物ですね。

ふたりが初めて出会った日に撮った写真。恋が始まる前
ふたりが初めて出会った日に撮った写真。恋が始まる前

夫から指輪をもらったとき、私はホテルに滞在していたのね。まだ知り合ったばかりで、一緒に住んでいなくて。そのホテルにいるときに、照れくさそうに指輪を持ってきて、私に見せたんです。私、男の人から指輪をもらったのが初めてなの。だからびっくりしちゃって。それもなんか、大人っぽく感じられて。どういうつもりかしら、エンゲージリングのつもりかしらって、驚いちゃってうれしくて。女性として扱ってくれたんだなって感じがして、すごく感動したんです。

スタイリッシュな結婚式の写真
スタイリッシュな結婚式の写真

夫のどういうところが好きだったかというと、気楽なところかしら。私と同じくポカーンとしてる人なのね。夕方くらいに、お蕎麦食べたいなーと思って帰ってくると「ねえ、お蕎麦食べに行かない?」って言うんです。その感じ、すごくよくない? なんか、食べ物で、蕎麦に行きたい気分なのに「トンカツ行きたい」って言われるとギョッとするけど、そういうところの歯車がすごく合っていたみたい。

 

仕事のジャンルはまったく違う人だしマイペースな人だけど、私もわがままでマイペースなので、それがたまたま食べ物で息投合するというのは、すごくうれしい。ちょっと飲みたいなと思うと「一杯やろうか」って言ってきたり。そういうところかな。リズムが合っている人だったんですね。

『島田順子おしゃれライフスタイル Shimada Junko Style』
¥1,500(税別) マガジンハウス刊
パリコレ35周年を記念した、島田順子さんのかっこいい生き方が詰まった、ファン待望のライフスタイル本が好評発売中。
島田順子おしゃれライフスタイル Shimada Junko Style
この記事の執筆者
1941年7月7日生まれ。杉野学園ドレスメーカー女学院デザイナー科卒業。1966年、渡仏。1968年、パリの百貨店・プランタンの研究室へ入る。1970年、デザイナー集団マフィア入社。1975年、キャシャレル社入社。1976年、女児出産。1981年、パリに「JUNKO SHIMADA DESIGN STUDIO」設立。パリにて初めて「JUNKO SHIMADA」コレクションを発表。東京にて初めて「49AV.JUNKO SHIMADA」コレクション発表。1988年、山地三六郎氏と結婚。1996年、日本ファッションエディターズクラブデザイナー賞(FEC賞)受賞。2010年、孫が誕生。2012年、フランス文化勲章シュヴァリエ授与。2013年、東京オリンピック招致委員ユニフォーム監修(AOKI)。2016年、パリコレクション70回・35周年を迎える。 好きなもの:子供、友達、仕事、食事、料理、包丁、皿、台所用品、動物のもの、ガラス
クレジット :
撮影/篠原宏明 構成/安念美和子