15th , Oct. 2016

インタビュー

女性指揮者・西本智実さんへの7つの質問

数少ない女性指揮者として、日本のみならず、世界中のオーケストラで活躍する西本智実さん。稀代の才能で、これまでに多くの注目を集めてきた彼女。自身が芸術監督兼指揮者を務めるイルミナートフィルによる、『座オペラ in 大阪松竹座〜蝶々夫人〜』の公演を控えたマエストロに、音楽に対する熱い想いを伺いました。

女性指揮者の西本智実(tomominishimoto)Q. 学生時代は作曲を学ばれていたそうですが、ご自身の指揮にはどのような影響を与えていますか?

A. 作曲家というのは、建築家のようなものだと思います。音楽は目には見えませんが、大きな建物のようなもの。そう考えたときに、音楽の建築…つまり作曲を学びたいと思いました。昔の偉大な作曲家たちは、なぜこのような材質(音)を使ったのか、作曲を学べば分かると思ったのです。作曲家がつくった音楽というのは一種の発明に近く、既成概念を覆し、新たな価値観を示してくれるもの。彼らがしてきたことをもう一度検証することで、自分の音楽の方向性を考えることができたと思います。

Q. 音楽大学を卒業後にロシアに留学されたそうですが、その際にモチベーションとなっていたことは?

A. 私が留学していたロシアのサンクトペテルブルクは、街全体が世界遺産となっている古都です。真冬に二重窓から眺める外の景色は、チャイコフスキーたちが見ていた景色と今もあまり変わらないような気がします。ヨーロッパは石の文化なので、彼らが使っていたものや景色がほとんど変わらずに残っているので、タイムスリップしてしまったような感覚になるのです。私が指揮者をしていたミハイロフスキー劇場は、エルミタージュ美術館のすぐそばで、本当に昔とほぼ同じ景色が残っていて、その時代の芸術家たちの足跡を感じることができました。風土や気候は、音楽に大きな影響を与えるものなので、「彼らはなぜこんな音楽をつくったのだろう?」と考えたとき、「この景色や気候がそうさせたのだ!」と感じることができたのです。脈々と受け継がれてきたものを感じることが、非常に大きなモチベーションになりましたね。


『くるみ割り人形』子供招待プロジェクトにて、子供達の前で話す西本智実(tomominishimoto)『くるみ割り人形』子供招待プロジェクトにて©IWC


Q. 本格機械式時計で知られるスイスの時計ブランド、IWCと協力し、お子さんを『くるみ割り人形』公演へ招待されたそうですが、それを終えての感想は?

A. 本当に素晴らしい企画で、私自身もずっとやりたいと考えていたものでした。公演では舞台の一面しか見ることができませんが、このような機会に客席からは見えない部分を見てもらうことで、子供たちにとってもきっと良い経験になるのではないかと考えたのです。実際に舞台に立って客席を見て、本番は客席から舞台を見る。そうすると、全く見え方が違ってきます。特に、オペラやバレエなどは多くの人が関わっているので、そういった作品の舞台裏に触れることで見え方がきっと変わります。参加してくださった方々からたくさんの反響をいただき、実現できてよかったと思うと同時に、ぜひ今後も続けていきたいと思いました。

Q. IWCの時計づくりと、ご自身の音楽に共通する点は?

A. 時計と音楽には、共通する点が多くあると考えています。私の仕事は、さまざまな音や楽器を組み合わせ、音楽をつくり上げること。時計が時を刻むように、私はテンポを刻みます。そういった共通点もあり、昔から時計は大好きでした。多くの要素を組み合わせることでひとつの時計をつくりあげる時計職人と、指揮者は似たような仕事だと考えています。技術だけではなく、芸術的なところにも共通している部分があると思うので、時計を見ると中の構造が気になって仕方がありません! もちろん、IWCの時計は分解しませんよ(笑)

手振りを交えて話す西本智実(tomominishimoto)。左手にはIWCの時計
Q. ご自身が好きなクラシック音楽は?

A. 個人的に聞くのは、自分が指揮をしないような作品ですね。例えば、シューマンやヴォルフの歌曲などです。というのも、詩と音楽が融合することでひとつの世界ができる、歌というものが好きだからです。シューマンの『ミルテの花』『女の愛と生涯』『詩人の恋』は特に好きで、気分によって聴き分けています。

Q. 詩と音楽が融合した作品でもある、ベートーヴェンの『交響曲第九番(第九)』に対する印象は?

A. 数年前に、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂で、初めて第九を演奏する機会を得ました。しかし、第九が発表された当時は、シラーの詩がキリスト教だけを肯定する内容ではなかったため、長らくヴァチカンでは演奏することができない作品だったのです。ヨーロッパの音楽作品には、一神教がベースとなった厳しい一面もありますが、第九には生きとし生けるもの全てに対する愛という、そういったものとは少し異なったニュアンスが含まれています。しかし、そこにたどりつくまでの道はとても険しい。第九には、向かい風のようなものを乗り越えていくときに見えてくる“何か”、つまり、普遍的概念があります。

また、ベートーヴェンの作品をヨーロッパの歴史的な建造物で演奏すると、不思議な効果が生まれます。ローマのサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会で演奏した際、音が反響するときに「パチン」と違う音が聞こえました。しかし、それが繰り返されることによって、陶酔するような重厚な音楽となっていくのです。私は、ベートーヴェンがこういった現象が起こることまでを計算して、作曲をしていたのだと思います。彼がセンセーショナルな作曲家といわれた所以が分かり、やはり天才なのだと感じました。これは、日本の近代的なホールなどでは起こらない特別な現象です。

西本智実(tomominishimoto)が指揮した蝶々夫人の1シーン2016年10/26、27に大阪松竹座で行われた
『蝶々夫人』の1シーン©松竹


Q. 最後に、2016年10月に行われる「大和証券グループPresents 西本智実プロデュース 座オペラ in 大阪松竹座〜オペラ『蝶々夫人』全幕上演〜」公演について教えてください。

A. 日本を舞台にした作品でありながら、これまで日本でも実現できていなかった、京都祇園甲部の芸舞妓衆に初演以来、出演していただいています。歌舞伎の劇場にはオーケストラピットがありませんので、オーケストラも舞台にあがり、花道など特有のものを生かした柔軟な使い方を考え、演出にもこだわりました。

女性指揮者、西本智実(にしもと・ともみ)
■西本智実(にしもと・ともみ)
イルミナート芸術監督兼首席指揮者等。名門ロシア国立響及び国立歌劇場で指揮者ポストを外国人で初めて歴任、約30か国より指揮者として招聘。ヴァチカンの音楽財団より「名誉賞」など受賞多数。2015年エルマウ(ドイツ)・2016年伊勢志摩G7サミットに向け日本政府が海外へ日本国を広報するテレビCM・日本国政府公式英文広報誌に、国際的に活躍している日本人として起用。ハーバード大学院に奨学金研修派遣され修了。

■大和証券グループPresents 西本智実プロデュース
座オペラ
in 大阪松竹座〜オペラ『蝶々夫人』全幕上演〜
大阪松竹座
大阪府大阪市中央区道頓堀1-9-19
TEL:0570-000-489
会期/2016/10/26(水)18時開演、10/27(木)15時開演
入場料/一等席 ¥14,000、二等席 ¥7,000(いずれも税込)

 

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撮影/五十嵐美弥(小学館写真室) 取材・構成/難波寛彦(LIVErary.tokyo)

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