クリスマスも迫る2015年末、女同士で夜の東京タワーに上った。50歳を迎えた友人のプレゼントの希望が「上京して30年近く経つのに、行ったことがない」東京タワーだったのだ。

その日は雨、周囲はカップルばかりのなか、250mの高みから見下ろす東京は悪くなかった。

「私たち、いつもあそこらを駆けずり回っているんだよね」

「私たち、頑張っているよね」

彼女は、私は、何かを確認するかのようにつぶやきながら、にじむ夜景に見入った。

東京タワー tokyotower

雑誌「Precious」ファッションディレクター・吉川が、東京をあれこれレポートさせていただくこのコラム。

初回にどこに行くべきか──迷ったあげく東京タワーに決めたのには、ここが“ザ・東京”のランドマークであるという以外に、個人的な感慨がありました。取材当日は、思い出の夜とは打って変わって初春の好天。絶好の東京タワー日和のなか、広報の小椋信也さんにご案内いただき、まずは高さ150mの大展望台へ。虎ノ門ヒルズ、東京ミッドタウンといった都心の高層ビルは、高さ250m程度。この大展望台に上ると「ちょうど高層ビルと目が合うような感覚で、東京が立体的に見えますよ」と小椋さん。確かに見下ろすというよりは、横に広く、奥に深い大パノラマを見渡す感じ。とはいえ見下ろすドキドキ感も欲しいという方は、ぜひルックダウンウィンドウの上に立っていただきたい。高所恐怖症ならずとも、ひざ下がぞわーっとする感覚とともに、タワーのトラス構造が間近に、地上の人や車が極小に、圧倒的なパースペクティブで迫ってきます。子供だったらガラスの上に寝そべるのに、と思ったことはいうまでもありません。

東京タワー tokyotower 東京タワー景観案内

ちなみに前回上ったときは、当てずっぽうでビルの名前を挙げては悦に入っていた私たち。実は便利な無料アプリも存在していました。東京タワーに到着したら「東京タワー景観案内」をApp StoreやGoogle Playからスマホにインストール。眺めている方角に合った情報を自動的に受信して、画面に表示されるアイコンをタップすれば、ビルやランドマークの名前を教えてくれます。わかるって気持ちいい! 東京タワー、進化しています!

東京タワーの無料アプリ

年間約200万人が訪れるという東京タワー。50周年だった2008年には、高さと同じ333万人がいらしたそう。いよいよ、そのてっぺんに迫る、高さ250mの特別展望台へと移動。ガラス張りのエレベーターからは、赤い鉄骨が飛び去る様が間近に見られます。展望台自体は意外なほどにこぢんまりとしたスペースですが、窓からはぐんとボリュームを増した空と、それに比して小さくなった大都会。「朝も見たいし、夜も見たい、という方には、日没の時間をおすすめします。天気のいい日の日没後の数十分はマジックタイムと呼ばれるように、空が青く染まって、朝とも夜ともつかない美しい光景が見られますよ」と、とっておきの情報を小椋さんが教えてくれました。

東京タワーから東京の街を見下ろす
東京タワーの基部
東京タワーの展望台にて取材中

約10年間、朝も夜も、春も夏も秋も冬も、東京タワーを見続けている広報の小椋さん。小椋さんにとって最も美しい東京タワーの姿は、どこからの眺めだろう──素朴な疑問をぶつけてみると「真下から見上げるのが最高です」とのこと。土・日・祝日の天気のいい日は、タワーの足下にあるフットタウンの屋上から、歩いて大展望台まで上ることができます。

「複雑に絡み合うトラス構造を、間近に見上げることができます。その幾何学的な美しさは、なんともいえませんね」。

5年に1度、定期的に塗装をし、コーティングをし、強度と美しさを保ち続けている東京タワー。その構造は主に、熱した鉄の鋲を打ち込んで固めるリベット接合で、なんと手作業で組み立てられています。

「ぜひ鉄骨の細部まで注目してください」。

名古屋テレビ塔、二代目通天閣を手掛けた“塔博士”こと内藤多仲が設計。鳶や鍛冶、塗装職人延べ219,335人が携わり、第二次世界大戦後の復興まもない昭和33(1958)年に完成。日本人の夢と希望のシンボルは、上から見下ろすだけではなく、下から見上げる楽しみももっているのです。

タワーたいやき

 胸がすくようなダイナミックな光景におなかがすいたら、2015年に誕生した新名物「タワーたいやき」(180円/税込)で、ほっとひと息。そういえば東村アキコ先生の名作マンガ『東京タラレバ娘』でも、恋に悩み疲れた主人公が、東京タワーに上るシーンがあったなぁ、と思い出します。朝によし、夜によし、晴れてよし、雨でもよし、見下ろしても見上げても見渡してもよし──ここに来ると、なぜかオンナは、色々とふっきれるように思います。東京を訪れる人はもちろんですが、東京に暮らす人にこそもっと身近に感じてほしい“ザ・東京”。さぁ今度は、何を確認し、何を納得し、何を決断しに、やってくるのでしょう。あなたは、そして私は。

夜のタワーに親しめる、ライトアップの秘密とは?

基本的に日没から24時まで、毎日点灯している東京タワーには、タワー自体を照らすライト=ランドマークライトと、タワーから外に向かって輝くライト=ダイヤモンドヴェールの2種がある。180個の電球からなるランドマークライトは、夏期は涼しげな白が基調の光、10月上旬からの冬バージョンではおなじみのオレンジ系に変わる。毎年7月7日の七夕前後に夏バージョンになるが、その日は朝から職人が手作業で電球を交換。夜には変わっているというから驚きだ。7色の点灯色をもつダイヤモンドヴェールは、電球が計276個。主に土曜日の20:00~22:00に点灯するが、例年10月1日に行われる「ピンクリボン キャンペーン」時はピンクに染まるなど、イベント等で特別なライトアップも。ちなみに4月中の土曜日も、春をイメージしたピンクを予定。また満月の日には、タワーの上半分のライトが消える「満月ダイヤモンドヴェール」も実施。東京タワーがなんか暗いな…と思ったら、お月様を見上げてみたい。ライトアップのスケジュールは、東京タワーの公式ホームページでもチェックできる。

写真左から/ランドマークライト夏バージョン(七夕前後〜10月上旬)、冬バージョン(10月上旬以降)。7色あるダイヤモンドヴェールのなかでも、4月は夢・幸運のメッセージを送るピンクが点灯

東京タワー

住所:東京都港区芝公園4-2-8
TEL:03-3433-5111
展望台営業時間:9:00~23:00(最終入場22:30)
展望料金:大展望台:高校生以上¥900、小中学生¥500、4歳以上¥400 特別展望台:高校生以上¥700、小中学生¥500、4歳以上¥400(すべて税込)
公式サイト:http://www.tokyotower.co.jp

この記事の執筆者
1967年生まれ。出版社から転職し、1996年小学館入社。Domani創刊編集部、CanCam編集部、和樂編集部、Precious創刊編集部を経て、’10年にPrecious編集長に。’13年1月よりDomani編集長、’15年10月よりLIVErary.tokyo編集長、現在は和樂のファッションディレクター。好きなもの:タートルネック、デヴィッド・ボウイ、くまのぬいぐるみ、シャンパンorカヴァorフランチャコルタ、池波正太郎、大滝詠一、坂田靖子、相撲とテニス観戦、便箋と封筒、時短コスメ、『ディーバ』、シャーロック・ホームズ(グラナダTV版)、磨崖仏、U2、ダイアナ・ヴリーランド、納豆ごはん、ピアノ協奏曲第20番(モーツァルト)、育ちのいい不良
クレジット :
撮影/横田紋子(小学館写真室) 構成/吉川 純