29th , Dec. 2016

イヴ・サンローランが惚れ込んだふたりのミューズ、ベティ・カトルーとルル・ド・ラ・ファレーズ

藤岡篤子さん
ファッション
ジャーナリスト
藤岡篤子さん
イヴ・サンローランといえば、桁外れの才能にもかかわらず、引っ込み思案で恥ずかしがりやの性格ゆえ、常に「親衛隊」のような親しい友人達に守られていたことが知られている。

同時代を生きたニューヨークのアンディ・ウォーホールを取り巻く「ファクトリー」と、よく較べられる由縁だ。なかでもイヴには、突出した仲よしの女性がふたりがいた。

ひとりはベティ・カトルー、もうひとりはルル・ド・ラ・ファレーズだ。

左にベティ・カトルー、中央にイヴ・サンローラン(Yves SAINT LAURENT)、右にルル・ド・ラ・ファレーズ

イヴを囲むように3人で映っている写真は、’70年代前後からよく見られるが、ふたりの生い立ちや役割はまるで異なる。最初にイヴと知り合ったのはベティの方だった。

サンローランがベティ・カトルーに出会ったのは、1966年。ちょうどパンツスーツを発表した時期であった。フェミニズムがアカデミックな話題に昇り、ド・ゴール政権が既婚女性の法的権利を強化する法案を通し、女性達が新しい分野での職を開拓し始めていた、絶好のタイミング。パンツは新しい世代のユニフォームとして画期的なアイテムとなりつつあった。

イヴは、伝統的なメンズの服を、フランス風に「スモーキング」と呼び、危険なほどセクシーなスティレットヒール、妖艶なメイクアップ、ドラマティックなアクセサリーなどをコーディネートして、魅惑的で洗練されたモードに昇華して見せた。そのスモーキングが最も似合ったのが、ベティであった。

当時23才のベティに声をかけたのは、なんとイヴの方から。取り巻きに守られていなければ、他人と知り合うこともなかったイヴにとっては、前代未聞の珍しい行動と言ってよい。出会ったのは、行きつけのクラブ「レジーナ」だ。

「イヴが私に声をかけたのよ! 彼はとてもきれいだった。それがあった瞬間、最初に気づいたことね。長髪で目がすごく大きくて、美しい体つき。広い肩幅に長い脚。そんな風にまじまじと見たの。とてもナルシスティックだった。私たちは話しはじめて、そこでもうほらご覧の通り、大親友よ!」(イヴサンローラン 喝采と孤独の間で 日の出出版)と後にインタビューで語っている。

ベティ・カトルー。Betty Catroux, model and muse of Yves Saint Laurent pictured outside his first London Rive Gauche store on New Bond Street, London, opening day, 10th September 1969.

長身で長い手足、両性具有のようなスレンダーな体つき、長い金髪を無造作に垂らした、ベティ・カトルーは、以来、長年にわたってイヴ・サンローランの親友となり、そして誰よりもサンローランの服を愛した。

ふたりは、デザイナーとミューズという関係よりもっと密接でスピリチュアルであった。ある意味双生児のような本能的なつながりと言ってもよい。なにしろイヴから声をかけたことそのものが、運命的と言ってもよい行為だったのだから。ベティは、生涯の心の友であり、サポーターであった。

ふたりの友情と敬愛の念は、今でも続いている。デザイナーは代わったが、サンローランのコレクションの最前列には、毎回サンローランの公私とものパートナーであったピエール・ベルジェとともに、ベティは当時そのままのほっそりしたパンツスタイルで姿を見せ、ときにはカトリーヌ・ドヌーブと三人並んで座ることもある。仲のよい兄弟のように、馴れ合った三人の様子はサンローランの黄金時代を彷彿とさせ、まるで生き証人のように、あの自由で可能性に満ちていた祝祭の時代、’60年代から’70年代を連想させるのだ。

 

イヴ・サンローランとルル・ド・ラ・ファレーズ Le top model Loulou de la Falaise et Yves Saint Laurent lors des défilés Prêt-à-porter Automne-Hiver 1993-1994 en mars 1993 à Paris, France.

一方、ルル・ド・ラ・ファレーズとは、ピエールとベティと3人で訪れたフェルナンド・サンチェス宅で出会っている。

アラン・ド・ラ・ファレーズ伯爵(フランスで最も高貴な家柄のひとつ)と、パリでエルザ・スキャパレリのモデルをしていたマキシム・バーリーとの間に生まれたルルは、母親の血を譲り受け、奔放で風変わりな様子の美しい顔立ちをしていた。早い結婚離婚の後、母親の友人であったサンチェス宅に身を寄せていたのだ。21歳で妖精のような容姿と、アンティークのドレスに民族調の宝飾品や長いフリンジ使いのショールに身を包んだルルに「私たちはみんなたちまち彼女に恋しちゃったのよ」「彼女はすごくきれいで、すごく面白い子だった。で、私たちの小さな家族の一員になったのよ」とインタビューで語っている(イヴ・サンローラン 喝采と孤独の間で 日の出出版)。

ルルは早速イヴの仕事を手伝うようになったが、社交界とのつながりで理想的な外交官の役割を果たしていた。アンディ・ウォーホールのつながりからマンハッタンの若い社交グループ、母親のマキシムからは、ダイアナ・ヴリーランド周辺のファッショナブルな芸術家。ロンドンの人気ナイトクラブ「アナベルズ」のオーナーは実の弟という具合、パリでもソーシャライツの集うクラブ「ル・パラス」の社交シーンの中心で、モデルにも絶大な人気があった。

ゴージャスで面白く、スタイリッシュで、イヴにとって完璧なミューズ。その後、ルルは実質的にリブゴーシュのコレクションに関わり、最終的には、ショーの前にイヴの修正がちょっと入る程度に落ちついていった。

「女性は年を取り、個性が顔に出るようになってこそ、本当に美しい」と信じていたイヴにとって、中性的な容貌で中年期になってもスリムな体型を保つルルやベティは、永遠の理想の女性であったに違いない。

 

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文/藤岡篤子 写真提供/AFLO 構成/渋谷香菜子

Presenter

藤岡篤子さん
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ジャーナリスト

Profile

1987年、国際羊毛事務局婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。2000年より情報用語辞典『イミダス』でファッション分野を執筆。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。

好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)

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