23rd , Mar. 2017

インタビュー

ミスをしたときこそ、部下を守れるか【岸見一郎さんインタビュー2】

アドラー心理学の第一人者であり、大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者である、岸見一郎さん。インタビュー2回目は、リーダーの役割についてうかがいます。

【第1回】女性リーダーがもつべき『勇気』とは?
【第3回】「本気出してないだけ」の後輩は、ほめず、叱らず伸ばす

 

第2回 部下が力を発揮できないのは、上司の責任


岸見一郎さん笑顔

――― リーダーとはどういうものか、自覚をもつことが大切というお話がありましたが、役割についてもう少し詳しくおうかがいしたいと思います。

部下が自分を追い越すことが、リーダーの役割ですね。ある大学で古代ギリシア語を教えていたときのことです。非常に難しい言語で、優秀な学生でも苦戦します。高校のトップクラスの学生たちが集まる大学でしたが、英語もドイツ語もフランス語も完ぺきにできるという生徒が、まったくできなくて初めて挫折を味わった。授業中にあてても答えないので理由を聞いたら、「この問題に答えて間違ったときに、先生に私ができない学生だと思われるのが嫌です」と。間違ってくれないと、どこが理解できていないかがわからない。僕の教え方に問題があるかもしれない。間違えてもできない学生だなんて絶対思わない、と伝えたら、次の時間からどんどん答えて間違えられるようになった。失敗を恐れず、真剣に取り組むと、4月にα(アルファ)β(ベータ)γ(ガンマ)から始めてた学生が、11月にはプラトンの『ソクラテスの弁明』をギリシア語で読めるようになりました。僕にはできなかったです。なぜ、彼女たちがほんの半年で読めるようになったかというと、僕の先生よりも、彼女たちの先生の方が優秀だったからです(笑)。

――― つまり、岸見先生が優秀ということですね(笑)!

後進の人が、師匠を超えるというのが教育です。これは教師と生徒の例ですが、職場にもあてはまります。上司が威圧的だと、部下は失敗することを恐れて仕事に自発的に取り組めない。部下が力を発揮できないのは、上司の責任です。「部下が無能だから」と思っている人こそ、すべて自分に返ってくるのです。

――― 「最近の若いコは、ゆとり世代だから難しい」とつい言ってしまう、30代以上の世代にとってもドキッとするお言葉です。

自分だって若いとき、そんなこと言われたら絶対嫌でしたよね。でも親になった人にもよくあるように、子どものとき言われて嫌だったこと、悔しかったことを口にしてしまう。自分がリーダーになったら、すっかり忘れて言ってしまう。アドラー心理学とは厳しいもので、他人ではなく自分を変える心理学。たとえ部下にどんな問題があっても、「私に責任がある」と思わなければいけない。確かに部下に問題があることはありますし、責任を取れないトラブルもあります。ただ、何かあって「お前、なんてことをしてくれたんだ」と部下を責めるような上司を誰も尊敬はしない。ミスをしたときこそ、部下を守れるか。責任から逃れないことが、リーダーとして求められる資質だと思いますね。

――― 覚悟を決めてやりきれたら充実感を得られると思うのですが、一方で、その責任の重さがつらいという人もいると思います。

昇進しないという選択肢もあります。人には適材適所があるので、リーダーが世の役割のすべてではない。生涯1プレーヤーの道を自分で選んでみるのもひとつです。年功序列で、年上であるというだけでリーダーになる組織が、いい組織とはかぎらない。『嫌われる勇気』を書いたときも、編集の柿内さんは30代、共著者の古賀さんは40代、僕は50代。リーダーとなる編集者の人がいちばん若かった。改善点を指摘されると、悔しいから文句を言いたくなる人がいるかもしれません。「そんなに言うならあなたが書きなさいよ」と。でも、実際に有能で的確な指摘をしてくれるから、著者である僕たちもプレーヤーとしてよりよい本をつくっていけたのです。

――― 「適材適所」という視点は、もし自分より若い人が上司になったときにも、活かせそうですね。

そうですね。もし自分こそリーダーになりたいと思うのであれば、建設的に自分の力を伸ばすしかない。あの人が昇進できるのは学歴だとか、気に入られているからだ、などと言いたくなる人もいると思うのですが、もう企業もそんなことで管理職を任せられるような状況ではないはず。資質の違いなので、リーダーは特有の力がいる。リーダーになれなかったからといって、自分を卑下することはありません。職責の違いが人間の優劣を意味しないということをわかっていれば、ビクともしないと思います。

 

インタビューは全5回です。>>【第3回】「本気出してないだけ」の後輩は、ほめず、叱らず伸ばす

 

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なぜ、あなたはいつまでも変われないのか?なぜ、あなたは劣等感を克服できないのか?なぜ、あなたは幸せを実感できないのか?なぜ、あなたは過去にとらわれてしまうのか?―アドラーの幸福論がすべての悩みに答えを出します。フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラーの思想(アドラー心理学)を、「青年と哲人の対話」という物語形式で紹介。欧米で絶大な支持を誇るアドラー心理学は、「どうすれば人は幸せに生きることができるか」という哲学的な問いに、きわめてシンプルかつ具体的な“答え”を提示する。この世界のひとつの真理とも言うべき、アドラーの「幸福論」はほかの誰でもないあなたが、あなたらしく生きていくためのヒントを与えてくれます。

◆プロフィール
岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。著書に『アドラー心理学入門』『幸福の哲学』など。

撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子

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