24th , Mar. 2017

インタビュー

「本気出してないだけ」の後輩は、ほめず、叱らず伸ばす【岸見一郎さんインタビュー3】

アドラー心理学の第一人者であり、大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者である、岸見一郎さん。インタビュー3回目は、部下を伸ばす秘訣についてうかがいます。

【第1回】女性リーダーがもつべき『勇気』とは?
【第2回】ミスをしたときこそ、部下を守れるか
【第4回】出世した女性が、男性のように振る舞う必要はない


 

第3回 自分の理想の部下像から、減点法で見ない


岸見一郎さんお話し中3

――― リーダーとして、部下の力を伸ばすコツはありますか? アドラーは、「ほめてもいけない、叱ってもいけない」と説きますよね。

アドラーは、「自分に価値があると思えるときだけ勇気をもてる」と言っています。仕事に取り組む勇気をもてるように援助することが重要です。結果を出すことを怖れている部下は、仕事に積極的に取り組もうとしません。家庭のことを例にすれば、成績が悪い子どもに「お前は頭のいいのだから、本気さえ出したらいい成績がとれる」と言っても、勉強しないでしょう。もし本気で勉強をして、それでもいい成績がとれなかったら実力がないことが判明してしまう。「もしちゃんと勉強したら」という可能性の中に生きていたいのですね 。

――― 一見やる気がないように見える部下も、「まだ本気出してないだけ」と思っていたいというのが本心でしょうか。

はい。対人関係も、摩擦が起きるからできたら避けたい。人に嫌われたり、傷つけられるくらいなら、対人関係の中に入らないでおこうと思う人がいます。でも、仕事をするなら人と関わることは避けられない。対人関係は悩みの源泉でもあるけれど、幸福や生きる喜びの源泉でもあります。

――― 対人関係の中に入って、仕事に取り組む勇気を部下にもたせるために、上司が今すぐできることはありますか?

「ありがとう」を伝えること。人は、誰かの役に立っているという貢献感をもてると自分に価値がもてます。自分に価値があると思えている人は、さまざまな課題に立ち向かうことができる。ほめて伸ばすという方針もありますが、「えらかったね」とほめることは、縦の関係をもとにした上から目線の評価。同時に、相手の承認欲求を増長させてしまいます。人にほめられるためにしか動かなくなる。今本当にすべきことは、ひょっとしたら誰にも評価されないことかもしれない。ほめられることを行動の基準にしてしまうと、自分で判断できなくなってしまいますよね。ただし、「ありがとう」と言われることを他の人に期待してはいけません。期待すれば、承認を求めていることと同じです。

――― では、ミスをしたときは、どのように対応するとよいでしょう?

叱らず、関係者に謝罪をし、同じ失敗を繰り返さないために部下と話し合う。伝統的な教育は「叱る」ですが、指摘するのは今まさに起きたミスの事実だけでいい。「どうしてこんなこともできないんだ」と言ったところで、後輩は自分に価値があるとは思えないですよね。叱られないために、上司の顔色をうかがい言われたことしかしなくなる。指示待ち人間になってしまいます。

職場でリーダーに何ができるかといえば、部下が自分に価値があると思えるように援助すること。自分にとって理想の部下像から減点法で見ると、足りないところにばかり目がいってしまいます。誰に対しても、加点していく。朝、問題なく職場に出勤しただけで、まずプラス。休まれたらそのぶん仕事が増えるわけですから。部下だって自分の存在に感謝されたら、そこで力を出さないでおこうと決心はしないと思います。尊重して受け入れてくれたと実感できたら、きっともっと頑張れる。それはほめることでも叱ることでもない、リーダーの役割です。

 

インタビューは全5回です。>>出世した女性が、男性のように振る舞う必要はない

 

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なぜ、あなたはいつまでも変われないのか?なぜ、あなたは劣等感を克服できないのか?なぜ、あなたは幸せを実感できないのか?なぜ、あなたは過去にとらわれてしまうのか?―アドラーの幸福論がすべての悩みに答えを出します。

フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラーの思想(アドラー心理学)を、「青年と哲人の対話」という物語形式で紹介。欧米で絶大な支持を誇るアドラー心理学は、「どうすれば人は幸せに生きることができるか」という哲学的な問いに、きわめてシンプルかつ具体的な“答え”を提示する。この世界のひとつの真理とも言うべき、アドラーの「幸福論」はほかの誰でもないあなたが、あなたらしく生きていくためのヒントを与えてくれます。

◆プロフィール
岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。著書に『アドラー心理学入門』『幸福の哲学』など。

撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子

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