1st , May. 2017

Timeless Style ICONS 12

‘60年代のトップアイドル、マリアンヌ・フェイスフルの光と闇

藤岡篤子さん
ファッション
ジャーナリスト
藤岡篤子さん

‘60年代のトップアイドル、マリアンヌ・フェイスフル。


アレン・ギンズバーグや、ジャンリュック・ゴダール、セルジュ・ゲンズブールなど1960年代のトップランナー達も魅了され、映画や歌でも主役に大抜擢、そのうえ恋人はとびきり格好よいローリング ストーンズのミック・ジャガーときている。そんなマリアンヌ・フェイスフルは当然、女子の垂涎の的。誰もが恋をし、憧れた‘60年代のミューズであった。


マリアンヌ・フェイスフル

彼女が着ていたファッションは、今見ても着てみたくなるほど可憐でみずみずしい。白襟付きのシンプルなドレスや、ニットドレス、英国調のツィードのパンツスーツなど、もう50年以上経つというのに、時代を超えてなお新鮮だ。清純可憐さに危うさがミックスされた、 ‘60年代ならではの独特のスタイルだ。ブロンドを無造作に流したヘアスタイルや、大きな目をことさら縁取るアイラインや長いまつげなど、お人形のような容姿は、‘60年代をビジュアライズした「化身的存在」といってよいだろう。彼女の面影は今も、多くのファッションデザイナーにインスピレーションを与えている。

マリアンヌ・フェイスフル

2017年秋冬コレクションでも、ミュウミュウ、クロエを始め、いくつものコレクションが‘60年代から着想を得ている。同時代を共有したデザイナーは、当時のサイケデリックな幻覚状態の再現か!と思われるモチーフを服に落とし込み、若い世代は、活き活きとして時代の牽引者となっていった、エネルギーにあふれる若者の雰囲気をコレクションに投影している。

今もなお‘60年代の輝きが色褪せないのは、なぜだろうか? それは、ずば抜けた才能がひしめきあうその時代のなかで、切磋琢磨して頂点に登り詰め、たったひと握りのカメラマンやアーティスト、モデルなど、とびきりのサブカルチャーのスター達が、時代を超えた普遍的な魅力を放ち続けているからであろう。‘60年代は、現代にとって「青春期」に当たるのである。

その青春時代のアイドルこそが、マリアンヌ・フェイスフルなのだ。1946年ロンドン生まれ。父は大学教授、母方は先祖にハプスブルグ家などの家系を持つ、名門貴族の出身。修道院で厳格なしつけと高度な教育を受けて育つ。富裕な家庭ではなかったがブルジョア階級の子女であった。

17才で美術商と結婚するが、1964年に歌手として『As Tears Goes By』でデビューしたのちに離婚。その後にデビュー曲を書いたローリングストーンズのミック・ジャガーと本格的に交際を始める。そのときがマリアンヌ・フェイスフルにとって若き日の黄金時代であり、また凋落への第一歩を踏み出した時期でもあった。

マリアンヌ・フェイスフルとミックジャガー

グルーピーに囲まれ、女性と経済力に不自由しない恋人を持ち、マリアンヌは次第に精神的に不安定な状態となってゆく。ドラッグに溺れ、止めさせようとしたミックの間にも亀裂が入り、関係が行き詰まると再びドラッグに走るという悪循環に陥って、結局、オーバードースの状態で警察に発見されるという、大スキャンダルを引き起こしてしまう。

「エンジェルボイス」と呼ばれた清らかな容姿と歌声のイメージは、このスキャンダルで粉々に砕け散り、「堕天使」と世間やマスコミから呼ばれ、アイドルとしての生命は完全に終わってしまった。

急激に古い価値観が崩壊していく時代において、貴族の血をひくマリアンヌが身を持ち崩していくさまは、芸能人のスキャンダルというよりも、旧体制が崩壊していく‘60年代の現実とも重なり、ある種の人々には苛立つような出来事だったに違いない。

だが、マリアンヌ・フェイスフルの語るべき物語は、それからの生きかたである。単なるアイドルの転落話でおしまいではなく、そこからの復活劇がキモなのである。清純可憐なお嬢様イメージなど、かなぐり捨て、すさまじいほどのバイタリティを見せるのだ。

事件のあと当然ながら低迷期が続いたが、歌手活動は続けていた。アルコール、ドラッグ、タバコの濫用で声質は変化し、透明感のあった声は、次第にドスのきいたしゃがれ声に変わっていった。

もう美しくも若くもないマリアンヌにとって、歌うことしか残されていなかった。だが、運命とは皮肉でドラマティックなものだ。スキャンダルと絶望に打ちのめされた声は、透明感を失った代償に生きることの苦しみ、辛さなどを内包したの情感豊かな表現力を身につけ、聴く人の心を鷲掴みにしたのだ。1979年にリリースされた『ブロークンイングリッシュ』で第一線に復活。ライブ活動も精力的にスタートさせた。1987年にリリースしたアルバム『Strange Weather』は、後にコム デ ギャルソンがパリコレクションのサウンドトラックとして起用。そのきしんだような歌声は、強くも痛々しく異様な迫力で会場を包んだのを、筆者はまざまざと覚えている。

女優としての活動も再スタートし、2006年にソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』のマリア・テレジア役、2007年には38年ぶりに『柔らかい手』で主役マギーの難しい役柄を演じ、高い評価を得た。

儚げな美少女の、すさまじい凋落と復活の物語。ミック・ジャガーをはじめ‘60年代の真のスターは世紀を超えた今も、多くが第一線で活躍中だ。マリアンヌもそのひとりとして甦った。危うい魅力を今も漂わせながら、強さを秘めて。

 

おすすめ記事はこちら
>>美しさこそが最大の権力であった時代の華々しいミューズ、ビアンカ・ジャガー


>>ジャクリーン・ケネディをしのぐ賞賛を集めた美貌の妹リー・ラジウィル


>>比類なき美貌で世界を手に入れたマリサ・ベレンソンから学ぶ──美しく歳を重ねるということ

文/藤岡篤子 写真提供/AFLO 構成/渋谷香菜子(LIVErary.tokyo)

Presenter

藤岡篤子さん
ファッション
ジャーナリスト

Profile

1987年、国際羊毛事務局婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。2000年より情報用語辞典『イミダス』でファッション分野を執筆。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。

好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)

Archives

なぜ大人の女性は「ネイビー」に魅了されるのか?あまり知られていない神秘的な理由

 

なぜ大人の女性は「ネイビー」に魅了されるのか?あまり知られていない神秘的な理由

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション
【2017カンヌ国際映画祭速報】サンローランのドレスを着て、いちばん華やいだセレブは誰!?

サンローラン

2017カンヌ国際映画祭速報

【2017カンヌ国際映画祭速報】サンローランのドレスを着て、いちばん華やいだセレブは誰!?

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション
その美しさ、危険級。ブルガリ『セルペンティ ヴァイパー リング』が新たに登場

ブルガリ

セルペンティ ヴァイパー

その美しさ、危険級。ブルガリ『セルペンティ ヴァイパー リング』が新たに登場

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション
【速報】桐島かれん「ハウス オブ ロータス」2017秋の展示会で新作をチェック!

ハウス オブ ロータス

2017秋展示会

【速報】桐島かれん「ハウス オブ ロータス」2017秋の展示会で新作をチェック!

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション
アイコニックなブルガリの新作サングラスで上品インパクトを手に入れて!

ブルガリ

2017AWアイウェア

アイコニックなブルガリの新作サングラスで上品インパクトを手に入れて!

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション
4万個のガラスをあしらったミキモト本店オープン!銀座の華やぎが止まらない

ミキモト

ミキモト銀座4丁目本店

4万個のガラスをあしらったミキモト本店オープン!銀座の華やぎが止まらない

LIVErary.tokyo
編集部
ファッション