「移住ブーム」の昨今。都会の喧騒を離れ、静かな地方での暮らしに憧れている方も多いのではないでしょうか?

そんな「田舎暮らし」にフォーカスした書籍は書店に多く並んでいるものの、似たような内容で主観的に描かれたのものがありがち。

そこでオススメしたいのは、代官山『蔦屋書店』の文学コンシェルジュ・間室道子さんが選んだ、「田舎暮らし」に関する2冊です。

心と体を見直す「移住ブーム」、まだまだ続いてます!

移住ブームであります。ひと昔前までは、たとえば熊本の人が秋田の住宅事情を得たり、長野の人が佐賀の学区制度を知ったりすることは困難だった。ネット社会の今は、あらゆる地域の情報が入手できる。都会に出るか地元に残るかではなく、「好きな場所に住む」は今や選択肢のひとつ。書店の棚には著名人たちの実践本が目白押しだ。でも「田舎に身をおいた私の幸せ」に重きがおかれた内容は、なんとなく似たり寄ったり。

その点、内と外への観察眼が身上である小説家が書いたものには驚きや発見が多い。宮下奈都の『神さまたちの遊ぶ庭』は夫の夢のため、福井から3人の子供を連れ、北海道に山村留学した1年間のエッセイなのだが、順調に進む生活のなか、宮下さんはひどい悪夢を見るようになる。原因は不整脈によるストレス。「ちゃんと楽しいのに」と彼女はショックを受けるが、辛いときだけじゃなくうれしくても心臓はどきどきする、と気づく。

移住でなくてもこの季節、何かで環境を変えて体調を崩し不安に思っている人は、本書でラクになることが多いはず。人間と場所の関係って、暗いことはNGだけど明るい変化ならいくら起きても大丈夫、というような単純なものではないのだ。ラストに出てくる、家族で移住を考えている人へのアドバイスもすごく考えさせられる。

もう一冊は、ごくふつうの女性8人を取材した『移住女子』。彼女たちは都会であんなに「これがなければ」だったお金や仕事やダイエットに対し、根こそぎ考え方を変える。そして彼女たちが来たことで、農協一本槍だった流通が変化したり、漁師さんたちが商品の梱包に工夫をしだしたりと、地域のあり方も変わっていく。

移住を考えている方にオススメの、読み応えある2冊だ。

 

神さまたちの遊ぶ庭』
ひょんなことから、一家5人で移住することになった宮下家。1年間の期間限定とはいえ、最寄りのスーパーまでは37キロ!という超大自然の中で繰り広げられる、涙あり、笑いありの家族日記。子供たちのたくましさが印象的だ。著=宮下奈都、光文社 ¥1,500(税抜)

 

■『移住女子』
UターンとかIターンなどという言葉は聞いても、Jターンや孫ターンとなると、さっぱり…。都会からの脱出を本気で考えている人にとっては、宝物のようなガイドブック。失敗例などがきちんと語られている点も好感がもてる。著=伊佐知美、新潮社 ¥1,300(税抜)

この記事の執筆者
TEXT :
間室道子さん 代官山 蔦屋書店コンシェルジュ
BY :
『Precious4月号』小学館、2017年 / 2017.7.3 更新
岩手県生まれ。幼いころから「本屋の娘」として大量の本を読んで育つ。2011年入社。書店勤務の傍ら、テレビや雑誌など、さまざまなメディアでオススメ本を紹介する文学担当コンシェルジュ。文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/早川クリスティ―文庫)などがある。 好きなもの:青空柄のカーテン、ハワイ、ミステリー、『アメトーーク』(テレビ朝日)
クレジット :
【Precious2017年4月号掲載時スタッフ】文/間室道子、撮影/田村昌裕(FREAKS)
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