15th , Jun. 2016

Timeless Style ICONS 3

カナダのトルドー首相の母、マーガレット・トルドーが自由奔放に生きた1970年代

藤岡篤子さん
ファッション
ジャーナリスト
藤岡篤子さん
知的でロマンティックな眼差しのピエール・トルドー首相に寄り添う、大きなトンボメガネを掛けた派手な顔立ちの女性。

その写真はフランスのモード誌がまとめた『モードと風俗の25年』という本の'70年代のページに大きく掲載されており、「相思相愛のはずだったのに…」というタイトルが付いていた。私が初めて、マーガレット・トルドーを知ったときだった。

現在、ハンサムで政治手腕でも注目されているカナダの若きリベラル宰相ジャスティン・トルドーの母親であり、'60年代から'80年代にかけてカナダの首相を務め、カナダに新憲法を制定、“トルドーマニア”という言葉が生まれたほど熱狂的なファンをもつ首相、ピエール・トルドーの妻であった。


カナダ首相夫人として、ホワイトハウスを訪れたときのマーガレット・トルドー Mrs. Margaret Trudeau, wife of Canada’s Prime Minister Pierre Trudeau on her visit to the White House in Washington Feb. 21, 1977 where her husband visited with President Jimmy Carter. (AP Photo)
トルドー家は「カナダのケネディ家」と呼ばれるほど、まさにブルーブラッド(名門)であるが、マーガレットが世界のゴシップ欄を騒がせ始めるのに、その写真から10年とかからなかった。プレイボーイとして長く独身を貫いてきたピエールと、29歳の年の差をものともせず一目惚れで電撃結婚。結婚後は長男ジャスティンをはじめ3人の子供をもうけたが、良き家庭人となっていったピエールに対し、20代のマーガレットはファーストレディの座に納まりきれず、サブカルチャーが渦巻く奔放な1970年代の生活に飛び込んでいった。

「スタジオ54」でマーガレットを写した写真がいったい何枚あることだろう。「スタジオ54」は、’70年代を象徴する殿堂のようなディスコ。選ばれた人のみが入場を許され、一歩入れば、トルーマン・カポーティがいみじくも書いたように、ドラッグをはじめ、モラルもタブーもない世界であった。

マーガレット・トルドー Margaret Trudeau sighted on October 3, 1978 at Studio 54 in New York City. (Photo by Ron Galella/WireImage)
マーガレットは「スタジオ54」に入り浸っていた。チューブトップにハーレムパンツという流行の最先端を着こなし、半裸の男性と戯れながらディスコダンスを踊る姿等、今でいう流出した写真は数え切れないほどだ。交友関係も華やかで、アンディ・ウォーホルをはじめ「スタジオ54」の常連であったライアン・オニールやジャック・ニコルソン、ミック・ジャガーなどロックスターとの艶聞も絶えなかった。

踊るマーガレット・トルドー At Studio 54, Maggie Trudeau, wife of former Canadian Prime Minister Pierre Trudeau, dances with a busboy, New York, New York, 1980s. (Photo by Allan Tannenbaum/Getty Images)
夫婦生活にとどめを刺したのは、一枚の写真だった。

1979年のカナダの総選挙前夜、「スタジオ54」で踊っている姿が目撃され、その写真は選挙当日のヘッドラインで大きく報道。結果、トルドーは敗れた。また6回目の結婚記念日を夫とではなく、ローリング・ストーンズと過ごしている。ファーストレディの責務を放棄したマーガレットに対してピエールは別居宣言し、3人の子供の養育権を取った。1980年に離婚。

マーガレットにもよき母、妻の時代もあった。ただ、1970年代の若い女性らしく、伝統的な行事には反体制的な態度で接した。アメリカ大統領を招いた公式晩餐会では、ロングガウンがルールだったにも関わらず、膝丈のドレスを着用。物議を醸しだすと同時に、ファッション界に波紋を投げかけた。またメキシコのオフィシャルディナーでは女性の権利を熱くスピーチしフェミニストぶりを発揮、ハバナでの外交セレモニーではジーンズを着用するなど、首相夫人時代にも型破りなエピソードがいっぱいだ。

エリザベス・テーラーとマーガレット・トルドー PIERRE TRUDEAU, ELIZABETH TAYLOR, JOHN WARNER, MARGARET TRUDEAU, 1977
それでは、マーガレットに理念はあったのだろうか?

現役の首相夫人時代に自伝『BEYOND REASON』を発表しているが、本人はファーストレディより、フォトグラファーを目指していたという。2本の映画に出演したもののプロの目は厳しく、「彼女は美しい。特に離れてみると。幻想は砕かれる」などと評され、成功とは言えなかった。テレビのライブトークショーでインタビューの仕事も始めた。人脈にものをいわせた華やかな顔ぶれが揃ったそうだが、これも長続きしなかった。26歳を過ぎるころ、マーガレットは神経衰弱になる。そして再び、結婚と離婚。ジャスティンが政治家として脚光を浴び始めたころから、マーガレットは新たな目的を見いだした。自らの経験を生かしたメンタルヘルスを提唱し、本も出版、現在に至っている。

カナダ首相ジャスティン・トルドーと、母マーガレット・トルドー Justin Trudeau and his mother Margaret celebrate after he won the Federal Liberal leadership Sunday April 14, 2013 in Ottawa. (AP Photo/The Canadian Press, Sean Kilpatrick)
美貌の持ち主だが、無軌道、無分別、思慮の浅さ、自分勝手、マーガレットを指す言葉はこれだけでは足りないだろう。おそらく理念はなく、気の向くまま時代の波に流されていったのではないか。

シンクレア水産大臣の娘として、19歳のとき休暇中のタヒチでピエールと出会い、あっという間に三児の母親。その間、1960年代に起きた変化は本質的な変化を遂げ、価値観は激変。サブカルチャーが主役、自由を謳歌するのが幸せの基準となったポップな時代であった。まだ20代で豆が弾けたように元気で、好奇心満々、ロック好きとくれば、時代の海に泳ぎだしたくなるのが当たり前であろう。

魅力的な’70年代を水を得た魚のように生きた女性が、カナダのサラブレッド、ジャスティン・トルドーを誕生させた母親なのだ。

文/藤岡篤子 写真提供/2・3点目:Getty Images、その他:AFLO 構成/吉川 純(LIVErary.tokyo)

Presenter

藤岡篤子さん
ファッション
ジャーナリスト

Profile

1987年、国際羊毛事務局婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。2000年より情報用語辞典『イミダス』でファッション分野を執筆。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。

好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)

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